Prologue

2020年4月7日 緊急事態宣言、自身の誕生日当日。
翌日 4月8日 【 Tsuji-que オープン】
辻 一毅さん に 2021年9月某日にお聞きしました。



──【Quramoto753】を閉めて【tsuji que(ツジケ)】をオープンしようと思ったのですか?

【Quramoto753】の店舗よりもキッチンが広く、僕のやりたいことがいっぱい実現出来る可能性があったんです。Quramoto753 の頃もやりたい事に色々と挑戦してきました。模索しながら、小さなキッチンで。それがゆえに不自由さも感じた。だから、一軒家という環境で更にやりたい事を実現出来ると思い【tsuji-que】をオープンしました。



──その“やりたいこと”とは?

 まず、料理業界の仕組みに対してずっと「なんで?」と思ってきたことを変えていきたいんです。それは、料理人やホールスタッフの給与体系であったり、労働時間に対してもそう。まず考えたのは、店舗事態を 週休3日制。1日はお店の事、1日は皆の事、1日はゆっくり休む。賄いは、全力で作って全力で食べる。遅刻は仕方ない、自分の仕事が間に合えばよい。失敗は繰り返さなければ許す。
そして、若い子たちが「独立したい」と思っても、相当な幸運や才能がないと難しい。だから【tsuji que】では、スタッフにもいい条件で給料を支払うように努力する。
その様な若いスタッフをまだ雇えませんが…
望みですね!



──レストランの働き手の環境を改善することが、いいレストランをつくることにつながると考えたわけですね。

 はい。そういう料理人業界の課題に取り組みたいと思っています。その一環として、「野暮」という会社を立ち上げました。「野暮≒粋」という意味です。
最初『粋』という社名と思って色々調べていくと、『野暮』という言葉に辿り着きました。
自分自身、客観的に見て『野暮ったい』部分が多く見て取れるのですが、料理やレストランとしては、『粋』に態度や人、食材へ さっぱりと垢抜けていてしかも色気がある。
という心意気で今後も料理と向き合っていこうと思って。
会社としての方向性と働き手の環境においては、プロヴァンスと北海道での温泉宿、お声を頂いた方のフード事業をプロデュースしたり、料理人とギャルソンへ投資ができる仕組みをつくるために今、動いているところです。いずれは僕の給料はそちらからの収入だけに絞り、【tsuji-que】の収入はお店の、未来のスタッフに還元しようと考えています。



──と言う事は、飲食で働く人を変えるために、まずは自分の店から新しいことを始めていこうと?
 
そうですね。【tsuji-que】は本当に初心に戻って創り上たいと。今居る働くスタッフはもちろん、お店を一緒に造ってくれるメンバーも、自分がいいと思う人から必然的に声を掛けて頂きました。料理も内装も自分たちでつくり直しました。スタート地点に皆で立てるように、ゼロから1をつくっていくその過程を楽しみたかったんです。
オープンしてもその気持ちを変えずに、色々と変化していきたいと思います。



─お店づくりに、様々なジャンルのクリエイターが関わっているそうですね。

 そうなんです。もともとのお店 『Last Drop』さんの装飾物や空間の使い方、素敵な物ばかりを使わせてもらってるのですが、
店内の壁や天井は、以前の店舗同様、スーさんにお願いして 沖縄の麻炭をベースに塗り、その上に 宮古島の赤土 を塗り込みました。イベントで知り合って、その時の麻炭や波動の話が本当に楽しかったのでこちらからオファーしました。塗る作業も友達や以前のお客様、自分達スタッフも参加させて頂きました。お皿なども 麻炭を使った物や、お水にもこだわりをもって 様々な人と意見交換して、今の形まで持ってくることが出来てきてると思います。ロゴは、友達の亮っちゃんに ザックリした事だけ伝えて作ってもらいました。Tシャツやパーカーなどを色々出て来たロゴで今後作っていきたいと思っています。



――この新型コロナウイルスで、何か変化はありましたか?

 これまでは、価格帯や原価率が決められた中で食材を選んでいたので、ある意味で受動的でした。でも今回この時期だけは、高値でも僕がいいと思った食材を選ぶ事にあえて挑戦しました。
店内での料理はもちろん、お客様がお家で作った料理に「tsuji-queの食事」が食卓に並ぶ事を想像して、『Take Home』という形でお弁当だけではない、温かい料理を食べて欲しいと挑戦しました。
主体的に料理に取り組めています。料理の幅も広がりました。
ただ、意外な変化もあって“皆のために何ができるか”と、周りのためにお金を使うように考え方が変わりましたね。なので、単に高級食材だけをつかったコース編成にはしていません。



──“自分のやりたいこと”のために移転した結果、“皆のため”を考えるようになったとは、逆説的ですね。
 
以前はスタッフに色々と求めてしまうことが多かったのですが、今は強要はせずに、尊重し合うようになりました。お店をマンパワーで引っ張るより、皆で一段ずつ階段を登っていく方がチームとしての結束力が高いと気づいたんです。だから僕らは、それぞれに目標を掲げながらも、皆が互いの目指すゴールをリスペクトし合っています。
それはお客様に対しても言える大事なことで、どうしたら喜んでもらえるか。相手を尊重して考えることが大切だと思っています。



──お店での辻さんは、熱のこもったプレゼンをしたり、調理中もカウンター越しに生産者さんの話をしてくれたりと、とてもパワフルですよね。そのパワーはどこから来るのですか?
 
それも、お客様に楽しく過ごしてもらいたいという気持ちからだと思います。来店してから家に着くまでの間、ずーっと満足した気持ちのまま帰ってもらいたいんです。例えば、お客様が今日の料理に物足りなさを感じて、帰り道にコンビニ寄って何か食べちゃう、なんてのは嫌なんです。だから、以前のお店ではやってこなかった「最後に最高においしいデザートを食べて、大満足して帰ってもらいたい」という思いを込めています。
なので、美奈ちゃんと色々と相談しながら『Tsuji-queのデザート』を追求しています。
甘さ加減、白いお砂糖を使わず、小麦粉に頼らず…
など皆と切磋琢磨出来て行けたらと日々実行しています。
それから、お店での時間をどうストレスなく過ごしてもらうかも大事。食べ疲れしないように、「家に帰ったら気持ちいいまま寝れます」というのをやりたいんです。
 
 人を楽しませることって、技術のもう一歩先にあると思うんです。レストランにおける、肉の火入れがうまい、魚をおろすのがうまい、といった自分の技術自慢では、お客様は喜ばない。そのもう一歩先にある、お客様に対する「愛情」があって初めて技術が活きてくる。技術は技術でしかなく、どう使うかによって初めて価値が生まれると。



──辻さんはどうして料理人になろうと思ったのですか?

人を、自分の好きなお店にいらっしゃった方や、知り合えた方に
『 美味しい 』と笑顔になってもらえる事に、自分の出来る事が
『料理』だと思っていた… のかと 今は思えます。
あとは、
「食材にこだわるのと同じように、食器やおしぼり、音楽にもこだわりたい。一事が万事。すべてにこだわるから、料理にもこだわれるんです」



──“料理業界を変えたい”と思うようになり、行動に踏み出したきっかけは何ですか?
 
才能ある有名なシェフたちも、料理業界では知られていても、一般の人はその名前すら知らない。それが料理人やギャルソンの現実なんです。スポーツ選手と同じ様に「こんなやつがいるのか」と、もっと興味をもってもらえそうじゃないですか。そういうきっかけをつくりたいですし、やっていかなければならないと思っています。
「何を言っているんだ」と笑われても跳ね返すだけの力がないと、十年後の定番なんて生み出せないと思っています。そこを覚悟をもってやっていけるかどうかだと思いますね。まずは自店でモデルケースをつくって、「あいつができるなら、やってみよう」と思ってもらいたいんです。



──パイオニアでありたい、ということですね。

 そうです。今は料理がすべてではない時代。レストランの価値感はどの角度から見るかでガラッと変わります。料理がおいしいかどうかだけで料理人を判断するのは、もう時代に合っていない。レストランというものを通して、何を伝えて何をしていくかが大切だと思います。



──1組様限定でも営業しようとしたのは?

このコロナの中、オープンしたお店です。
スタッフや自分の家族を守っていかなければ、何も始まらないと。
ご予約頂いたお客様も同様です。



──この騒動後はどの様にしていくのですか?

本当に分かりません。
成る様にしていきます。



──辻さんのTsuji queのお料理のジャンルは?

『日本料理』です。
フランス料理を教えてもらい、『醤油と味噌』と出会い。
フランスで出会った人々との会話の中で、
自分自身が 日本の事 を知らなすぎた事を痛感しました。
新たな場所で、やりたかった事が
『 日本人が作る 料理 』 なので、
日本料理ですね。



──料理に対して大事にしている事は何ですか?

『食材と会話する』 なんて言えたらカッコ良いのですが、
お客様の 『 笑顔 と 美味しいって言葉 』です。
不思議な顔をする場面は多々あるのですが、
お帰りの際に 『 笑顔 と 美味しかった また来るね 』を
大切に、大事にしてます。



──最後に、辻さんにとって『食』とは何ですか?

出逢い と 感謝



                ライター すえみ